採用の悩みを「候補者体験」という新しい視点で解き明かした一冊

書評:ブックダム編集長・三田智朗
ブックダム初代編集長。出版業界13年、書店営業・宣伝を経て編集者へ。4年で80冊を編集し、ベストセラー10冊・重版30冊・最高5万部を達成。「読者の未来をめくる」を信念に、一冊一冊に全力投球しています。保護猫2匹と暮らす1児の父。
note 編集長のひとりごと
X 三田(さんだ)@ブックダムの編集長

「求人を出しても、なかなか応募が集まらない」
「やっと内定を出したのに、直前で辞退されてしまった」
「選考の途中で、候補者が突然連絡をしてこなくなる」
人事担当者や採用に携わる経営者であれば、こういった悩みを一度は経験したことがあるのではないでしょうか。条件を見直したり、求人媒体を変えたりと、手を打っても状況がなかなか改善しない。そんな行き詰まりを感じている方も多いと思います。
今回ご紹介する『採用CX 「選ぶ」から「選ばれる」へ。活躍する人材を逃さない採用思考』(著:長井亮)は、こうした採用の悩みを「候補者体験」という新しい視点で解き明かした一冊です。
採用がうまくいかない原因はどこに?
なぜ、こうなるのか
採用がうまくいかない原因はどこにあるのでしょうか。
まず、構造的な変化として、労働人口の減少があります。候補者の絶対数が減っている中で、以前と同じ採用活動を続けていれば、当然うまくいかなくなります。
加えて、SNSや口コミサイトの普及によって、企業の情報が以前とは比べものにならないほど透明化されています。採用ページに書いてある言葉と、実際に働いている人の声がずれていれば、候補者はすぐに気づいてしまう。企業と候補者の間にあった情報の非対称性が、急速に解消されているのです。
さらに、特にZ世代を中心に、仕事に求めるものが変化しています。給与や安定性だけでなく、「なぜこの会社で働くのか」「自分はどう成長できるのか」といった働きがいや環境を重視する候補者が増えています。
つまり、採用がうまくいかないのは「人が少ない」だけが理由ではありません。候補者が企業を選ぶ基準が変わっているのに、企業側の採用の発想が追いついていない。だからこそ今、発想そのものを転換する必要があるのです。
「選ぶ」から「選ばれる」という発想の転換
本書が提唱するのは、採用CX(Candidate Experience:候補者体験)という考え方です。
採用CXとは、候補者が求人票を見た瞬間から、面接、内定、入社に至るまで、すべての接点で「どんな体験をするか」を設計し、改善していく考え方です。マーケティングの世界でいう「顧客体験(CX)」を、採用に応用したものと言えます。
以前は候補者の数が多く、企業は「選ぶ側」でいられました。しかし今は違います。候補者に「この会社に入りたい」と思ってもらえるかどうか、つまり企業が「選ばれる側」になることが、採用成功の鍵を握っています。
採用CXを高めるための5つのフェーズ
では、採用CXを高めるために、具体的に何を変えればいいのでしょうか。本書では採用プロセスを以下の5つのフェーズに分けて解説しています。
- 採用CXの本質理解——なぜ今、候補者視点が必要なのか
- 母集団形成——質の高い出会いを生む求人票・スカウトの設計
- 選考——候補者ファーストの面接・選考プロセス
- 内定者フォロー——辞退を防ぎ、入社意欲を高めるコミュニケーション
- これからの採用——データ活用と外部パートナー連携
その中から、特に実践的な3つのポイントをご紹介します。
採用CXを高める3つの実践ポイント
求人票は「企業が言いたいこと」ではなく「候補者が知りたいこと」を書く
「やりがいのある仕事です」「アットホームな職場です」——こうした言葉は、多くの求人票に並んでいます。しかし本書によれば、こういった抽象的な表現は候補者にはほとんど届いていません。
候補者が求人票を見るとき、頭の中にあるのは「自分はこの会社でどう働くのか」という具体的なイメージです。たとえば「入社3年目でプロジェクトリーダーを任される可能性がある」「残業は月平均10時間で、繁忙期でも20時間以内」といった情報があってはじめて、候補者は自分ごととして考えられるようになります。企業が「伝えたいこと」ではなく、候補者が「知りたいこと」を起点に書き直すだけで、応募の質と量が変わってくるのです
面接は「評価する場」ではなく「対話する場」として設計する
多くの面接では、企業側が一方的に質問し、候補者を評価することに重点が置かれています。しかし候補者の立場から見ると、面接は「この会社が自分に合うかどうか」を確かめる重要な機会でもあります。
本書では、面接前に担当者が候補者に声をかけ、軽い雑談でアイスブレイクをすることを勧めています。「今日はどちらからいらっしゃいましたか?」といったひと言が、緊張をほぐし、候補者が本音を話しやすい空気をつくります。そのうえで面接本番では「なぜ当社を志望したのですか?」と問うのではなく、「今の仕事でどんなことにやりがいを感じていますか?」「うちに来たら、どんなことをやってみたいですか?」という形で会話を進める。面接官が「評価者」ではなく「対話の相手」として接することで、候補者は安心して本音を話せるようになり、企業側も候補者の本質を見極めやすくなります。
内定後のフォローが、入社の意思を決める
内定を出したら採用活動は終わり——そう思っていると、内定辞退という形で痛い目を見ることがあります。本書によれば、候補者が内定後に感じる「本当にここで大丈夫だろうか」という不安こそが、辞退の最大の原因です。
大切なのは内定の伝え方にも気を配ることです。単に「内定のご連絡です」と通知するのではなく、「選考を通じて、あなたの〇〇という点に共感しました。ぜひ一緒に働きたいと思っています」という形で、候補者を選んだ理由を言葉にして伝える。これだけで、候補者の入社への意欲は大きく変わります。さらに内定から入社までの期間も、定期的な連絡や職場見学の機会を設けることで、「この会社は自分を大切にしてくれている」という実感を持ち続けてもらえます。
すぐ実践できる採用メソッド
• 候補者ジャーニーマップを使った採用プロセスの可視化
• スカウトメールの開封率を高める文面の設計
• 面接後に候補者の志望度を上げるフォロー面談の進め方
• 内定者の「3つの不安」を解消するコミュニケーション設計
• 採用CXの効果を測定するKPI設定の考え方
採用とは、企業が候補者を選ぶだけでなく、候補者もまた企業を選ぶ場です。お互いが納得した状態で出会うことができれば、入社後の定着率も、活躍の可能性も高まります。
本書はそのための思考と実践を、820社以上の支援実績をもとに体系化した一冊です。採用に課題を感じている方には、ぜひ手に取っていただきたい内容です。
採用CX 採用の全プロセスを「選ばれる体験」に変える方法
採用に悩むすべての企業へ。
“人が集まらない”時代の答えは、ここにあります。
本書は、820社を超える採用支援実績をもとに、採用を「企業が人を選ぶ行為」から「候補者に選ばれる体験を設計する営み」へと転換するための実践書です。
求人票やスカウト文面、会社説明会、面接、内定通知、内定者フォロー。
これまで分断されがちだった採用活動の各工程を、候補者の感情と意思決定の流れに沿って再構築することで、応募率・選考参加率・内定承諾率を高める具体的な方法を解説します。
