空き家を知らないまま生きていける時代は、もう終わった。「教養としての空き家」

「空き家って、田舎の話でしょ?」そう思っている方が、まだ多いのではないでしょうか。

教養としての空き家

こんにちは、出版社ブックダム編集長の三田です。


今回ご紹介する書籍は、訳あり不動産の専門家・丸岡智幸氏による『教養としての空き家』です。
タイトルにある「教養」という言葉に、最初は少し違和感を覚えるかもしれません。空き家の知識が、なぜ「教養」なのか——。
読み終えたとき、その問いへの答えが、イメージできるはずです。

なぜ、空き家はこれからの時代の「教養」なのか

空き家とは、個人の財産の問題でも、田舎の過疎地の問題でもありません。

現在、日本の空き家は900万戸。空き家率は13.8%と過去最高を記録しています。7軒に1軒は空き家という計算です。そして2043年には空き家率が約25%に達するといわれています。4軒に1軒が空き家という社会が、目前に迫っています。

こういった衝撃的な事実を受けて。著者の丸岡氏は、月間500件以上の空き家相談に向き合ってきた現場の専門家として「空き家は、日本社会のさまざまな変化が一つの場所に現れる『鏡』である」と考えています。

人口減少、高齢化、相続、税制、インフラの老朽化——これらはすべて、空き家という問題に凝縮されています。だからこそ、空き家を理解することは、今の日本が直面している構造的な課題を理解することに直結します。

それが「教養」である理由です。

「教養としての空き家」本の内容を1枚解説画像

空き家問題を放置したとき、何が起きるのか——地方だけじゃない、都心でも「住む場所の危機」が始まっている

「空き家って田舎の話でしょ」と思われた方に、まず見てほしいのが世田谷区です。

東京都世田谷区——高級住宅街として知られるその一角に、空き家が密集した区画があります。雑草が伸び放題で、建物はツタに覆われ、不法投棄も後を絶ちません。野良猫やタヌキ、ハクビシンまで目撃されており、地域住民は「アニマルハウス」と呼んでいます。

空き家問題は、すでに都心の、それも日本有数の住宅地で起きている話なのです。

一方で、都心ではまったく別の問題も起きています。

不動産価格の高騰です。投資マネーが都市部の不動産市場に流れ込み、実際に住む人の需要とかけ離れた価格が形成されています。東京都板橋区のあるマンションでは、投資家が物件を購入後、住民への家賃を月額約7万円から約19万円へ——2.5倍に引き上げるという通告をしました。約4割の住民が退去を余儀なくされたのです。

これは特殊な事例ではありません。

そしてその結果、こんな矛盾が生まれています。

地方には、住めない空き家があふれている。都心には、住みたくても手が届かない物件しかない。

地方に移住しようとしても、老朽化が進んで修繕に数百万円かかる家や、商店も病院もすでに消えた地域の家が大半を占めます。都心に住もうとしても、投資マネーによって価格は上がり続ける。

本書はこの状況を「住む場所の危機」と呼んでいます。若い世代が、自分の国で住む場所を自由に選べなくなっているのです。

地方では空き家が増え続け、都心では住むコストが上がり続ける——この差し迫った問題こそが、今の日本が直面している住宅問題の本質です。

空き家対策の第一歩は、法律でも行政でもなく「親との会話」だった

空き家問題というと、法律や行政の話だと思われがちです。でも著者が本書でもっとも強調しているのは、意外なほどシンプルなことでした。

「家族みんなで、未来の実家のことを話し合う」という家族のイラスト

「両親が元気なうちに、家のことを話し合うこと」

なぜそれほど重要なのか。本書に登場する事例が、答えを教えてくれます。

東京都内の住宅街にある空き家。Sさんが父親の他界後に相続の手続きを進めると、登記簿に「祖母が約15%の持ち分を持っている」という事実が判明しました。誰も知らなかった。祖父が生前、勝手に売却されないよう名義を残していたのです。

Sさんがすぐ祖母に連絡しましたが、「騙そうとしているのではないか」と疑われ、話はまったく前に進みませんでした。

別の事例では、Yさんの夫が他界したのち、妻は夫の持ち分がすべて自分に移ると思い込んでいました。ところが民法では、子がいない場合、夫の兄弟姉妹にも相続権が発生します。この家の場合、亡くなった兄弟の甥や姪まで含めると共有者は9人。そのうち半数以上とは会ったことすらなかった、という状況でした。

どちらのケースにも共通するのは、「話し合わないまま時間が過ぎた」ことです。

一般社団法人相続解決支援機構の2023年のアンケートでは、相続トラブルの原因でもっとも多かったのが「不動産」で44%。そして、トラブルがあった相続の75%で遺言がなかったという結果が出ています。

「縁起でもない」と感じるかもしれません。でも、親が元気で判断能力があるうちに話し合い、意思を確認しておくことが、家族全員の安心につながります。本書を手渡すだけで、その会話の入口になるかもしれない——編集者としてそう思い、この本を世に出しました。

空き家問題は、誰かが解決してくれる問題ではありません。あなたの実家も、あなたが住む街も、この問題と無縁ではありません。

まず「知る」ことから始めてほしい。そのために書かれた一冊が、本書『教養としての空き家』です。

本の紹介

本の表紙「教養としての空き家」ブックダム

本書「教養としての空き家」

著者:丸岡 智幸 

出版社:ブックダム
定価:1,870円(税込)
発売日:2026年6月11日
ISBN:4911160136

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